2045年は「シンギュラリティ」と言ってAI(人工知能)が人間の知能を超える年と言われています。しかし、AIには残念ながらまだ人間を超えられない致命的な弱点があります。AIの得意な点は、膨大な情報(ビッグデータ)の中から従来の経験値に照らして最良の選択肢を瞬時に(あるいは相当短時間に)決定できることや経験がなくてもAIが自ら学習(ディープラーニング)して短時間で経験を積むことができるという点です。
たとえば、AIが世界のトップレベルの囲碁のプロに勝ちましたが、これは囲碁のルールを教えることなしに過去の数千万回の囲碁の対局のプロセスを記憶させて、AI同士で対戦させて経験を積ませ、ルールや戦術を学習し、進化していった結果、人間を超えることができたのです。
つまり、これはどういうことかと言うと、あらかじめ完璧な戦術や理論を覚えこませたわけでなく、人間が長い年月をかけて経験を積んで覚えた戦術を短時間に覚えて強くなるのです。
したがって、AIを人間に例えると、人間が過去の膨大な経験によって蓄積したデータを全て記憶し、戦局の状況にしたがって過去のデータと照合させて次の一手を選択するようなものです。ある意味極めて人間的であり、人間の思考回路に似たアナログなスーパーロボットのようなものです。
そこには論理的な思考回路というものはありません。全て、ビッグデータに基いて統計的、確率的に判断しているのです。
したがって、データが少なかったり、経験のない(類似のデータがない)状況に直面したときにAIが判断することは難しいでしょう。
また、プロセスにいろいろな選択肢がある場合、必ずしも100%正しい答えが出てくるとは限りません。
AIの囲碁でもプロ棋士では絶対に打たない素人のような手を打ったとしても何故そのような手をAIが打ったのか人間は解説できません。AIも膨大なデータからベストな手を選択しただけであって、AI自身も何故その手を打ったのか説明はできないのです。
したがって、今のAIではプロ棋士の対局を論理的に解説することは難しいでしょう。
ここでもうAIの弱点はおわかりになったと思いますが、いくつかの判断要素が必要な思考パターンにおいては、従来人間が判断していた過去の多くの経験のビッグデータをもとにベストな答えを選択することしかできないので、100%の論理的思考によって正解を導くことができないということです。
よって、100%正しい答えを求める問題についてはAIは不向きです。
ファジィな判断要素が入らないプロセスであれば、AIよりもRPA(Robotic process automation)のほうが得意であり、100%の正解が期待できるでしょう。しかし、RPAは人間の知能を超えることはできません。
なぜなら、RPAは人間が行うパソコン上の操作をそのまま認識して、自分で短時間に人間の操作を再現するだけなので、人間の操作を超えてRPAの判断でパソコンを操作することはできないからです。
したがって、物理や数学の難解な問題を解くことについては、過去の膨大な経験値からベストな答えを導くものではないのでAIには難しいでしょう。これが可能となれば将来AIがノーベル物理学賞やフィールズ賞がもらえる時代が来るかもしれません。
人間の強みは、想像力、仮説力です。
新しい発見をする場合は、ある仮説を立ててみて、その仮説によって実際の観測結果が説明できることが少なくありません。
これは、まだAIは人間にかないません。この人間特有の論理的思考から生み出される想像力、ひらめき、インスピレーションのような思考回路は、AIは不得意です。AIが絵を描いたり、小説を書いたりするのも最初は人間がAIにきっかけを与える必要があります。2045年のシンギュラリティの時は、AIはこの課題をクリアしなければ人間を超えることはできないでしょう。
シンギュラリティが実現するためには、AIがビッグデータに頼らなくても論理的に思考でき、仮説を立てられる能力を取得することが必要でしょう。