競走馬トレセンの調教助手の帽子は未だに牛革で脳を守れるの?

昔、競走馬の某トレーニングセンター(以下「トレセン」という)で調教助手がレース前の調教をしていたところ、落馬して脳挫傷により死亡した労災事故がありました。
トレセンでは伝統的に厩務員(馬の世話をする労働者)は脳を守るためにヘルメットの着用が義務付けられていますが、調教助手は騎手と同じように牛革の帽子を着用しています。
騎手は野球選手と同じように労働者ではないので、脳を保護する義務はありませんが、調教助手は調教師に雇用された労働者です。
したがって、調教師は調教助手が安全に働くことができるよう労働契約法上の安全配慮義務を負います。

労働安全衛生法では、高所作業における墜落危険防止対策として、高さ2メートル以上の作業場所には手すりを設けることを原則とし、その措置が困難な場合は安全帯を着用させなければならないとされています。
しかし、馬の鞍上の高さは2メートル未満なので適用除外となっており、鞍上に手すりの設置はできないし、調教助手に安全帯などを着用させると落馬したときに引きずられてかえって危険です。

また、高さが2メートル未満であっても最大積載量が5トン以上のトラックの荷の積卸作業など労働安全衛生規則で規定された特定の作業には墜落危険防止用の保護帽を着用させなければならないとされていますが、調教助手にはその規定がないため、たとえ帽子が牛革であっても法違反はありません。

しかし、当時、何らかの再発防止対策を立てないと同じような事故が発生した場合に再び重篤な災害になる可能性があるため、私は事業主である調教師に対して調教助手にも厩務員と同じように墜落危険防止用の保護帽を着用するよう指導しました。

ところが、その調教師曰く、この帽子は日本競馬会が指定したものであるため、勝手にヘルメットに替えるわけにはいかないので日本競馬会に指導してほしいと主張しました。

そこで、私は日本競馬会の責任者を呼び出して指導したところ、この帽子は当時某大学の名誉教授に依頼して1年間かけて完成したものなので、早急にヘルメットに替えるわけにはいかないと主張し、現在に至ってもまだ改善されていません。改善しない理由は、おそらく馬は非常にデリケートな動物なので、騎手の少しの変化にもナーバスになるとしたら、帽子1つをとっても調教助手も騎手と同じ牛革に統一したいという思いが強いのだろうと思います。

要するに競馬の世界は人命よりも馬の調教を優先する世界なのです。