脳は司令塔ではなかった。人体と組織社会のフラクタル構造

最近の医学研究の進歩は目覚ましいものがあり、かつて人体の司令塔は脳であるというのが定説となっていましたが、その考えは正しくないことがわかりました。
人体には約60兆個の細胞がありますが、外部からの刺激に反応して、いろいろな臓器の細胞が自らメッセンジャー物質(情報伝達物質)を発して、他の臓器や脳に伝達して、行動を起こさせるというネットワーク構造となっていることがわかりました。
たとえば、脂肪細胞は非常に重要なメッセンジャー物質を持っていて、食べ物を食べて満腹になると、小腸にある脂肪細胞が満腹になったという情報を伝えるメッセンジャー物質(レプチン)を発して、血管を通って脳の視床下部に達すると満腹中枢の細胞とレプチンが結びつき、食欲を抑えて満腹感を感じさせ食べるのをやめさせます。
見方をかえれば小腸の脂肪細胞が脳に指令してこれ以上食べるのをやめさせているとも言えます。
このようなやりとりは、臓器と脳との間で行われているだけではなく、脳を介さないで臓器と臓器の間でも血管を通ってメッセンジャー物質の伝達によってやりとりが行われています。

つまり、血管がネットワークとなり、臓器や細胞の中に存在しているメッセンジャー物質が血管を通って他の臓器や脳に伝達され、全ての臓器や細胞が一体となって人体をコントロールしています。

これを会社(人体)に例えると、ある部署(臓器)がある情報を入手したとき、その情報を他の全ての部署(臓器)と社長(脳)に伝え、他の部署(臓器)が影響を受けるものであれば、その部署(臓器)が緊急対応するとともに、社長(脳)が各臓器などにあらためて指令を出すようなものです。

考えてみると組織体と言うものは、皆似たような構造をしています。
国と地方自治体も基本的に地方で解決できるものは地方で処理し、国全体にわたるものは国が指令を出します。
世界(人体)も基本的には各国(臓器、細胞)がネットワーク(血管)で結んで貿易や情報(栄養素、メッセンジャー物質等)をやりとりしていますが、何か世界的な問題(温暖化問題、小氷河期到来問題、核問題等)が発生した場合は、解決に向けて国連や世界的な機関(脳)が協議・決定します。

これは数学的にいうと、この世の中に存在する組織体はフラクタル構造(入れ子構造)に近いものがあるのではないでしょうか。
フラクタル構造とは、簡単にいうと、例えば,樹木の枝,海岸線,積乱雲,肺や血管の構造、雪の結晶、株価の変動等、遠くから見ても近くから見ても同じ形に見える構造のことをいいます。

特に組織体を構成している各組織の数が多くなればなるほど全体を統制することが難しくなっていくので、ある程度は各組織の判断で決定して行動してもいいということになっていきます。

これを会社で例えると、小さな会社はワンマン社長が全ての社員の動きを掌握して具体的な指令を出すという場合が多いと思いますが、大企業は社長が全ての社員の行動を把握することは不可能なので、支店ごとの動きや部署ごとの動きまでを把握して会社全体の経営判断をしていくと思います。
つまり、大企業では組織体が大きくなっているので、日々の具体的な支店などの運営については支店に任せているというようなものです。

人体は約60兆の細胞から成り立っているので、脳はワンマン社長ではなく、大企業の社長となって、ネットワーク(血管)を通じて、日々の運営について任されている各支店長(各臓器)に全体的な指令あるいは特定の支店(臓器)に指令を出しているのです。