社会的恒常性維持とは

恒常性維持とは

人の体は異常な状態を嫌います。異常な状態になったら生命を維持させるため、正常に戻すよう自動的に働きかけて正常な状態に戻ります。これを「恒常性維持」と呼んでいます。たとえば、運動して体が熱くなったら、体温を下げるため汗をかきます。それは熱くなったから汗をかこうと意識して汗を出すわけではなく、汗をかきたくなくても自動的に脳が察知して汗を出すよう指令を送るわけです。

また、がん細胞は正常な人間でも毎日相当な数(定説はないようですが1日に5,000個程度と言われる場合が多い。)が生まれていますが生命を維持させるために免疫細胞が直ちに攻撃して駆除します。がん細胞はもともとは正常だった細胞の遺伝子が2つから10個くらい傷ついたときに発生すると言われています。

実は、この恒常性維持の法則はあらゆる現象に通じています。

社会の中の恒常性

これは社会にもあてはまるところがあります。たとえば、もともと正常だった人間が学生時代に不良となり、大人になって反社会的勢力に入ってしまい、反社会的な行為を繰り返すようになった場合、安全な社会生活が維持できなくなるため、逮捕して身柄送検し服役させたり死刑にしたりして排除します。これはあたかも正常な細胞ががん細胞になってしまったため駆除することと似ています。

感覚としての恒常性

この「恒常性」は人間の感覚や感情にも影響を与えています。

人間は、無意識のうちに平均的なものに美しさを感じ、平常的なことに幸福感を感じます。かつて「最も理想的な美人顔、イケメン顔とは」と題するブログの中でも書いたように人間の顔は平均的な顔に安定感を感じ、美しいと感じます。つまり、平均的な眼の位置より大きく離れていたり、鼻が普通の人よりも非常に大きかったりして、顔のパーツの位置や大きさなどが普通(平均)よりもずれている場合に安定感が下がり、美しさが減少します。わかりやすく言うと、100人の不細工な顔を合成した写真は女性なら超美人、男性なら超イケメンになります。つまり、平均よりもずれた100人の顔のパーツは合成されることによって平均化され、整った顔になるため美しく見えるわけです。究極の美人(イケメン)は究極の平均なのです。

この法則に従うと最もかわいく感じる犬や猫などの動物も同じ種類の動物の多くの写真を合成したものが最もかわいく感じるものになるのではないでしょうか。

優れていることは個性

スポーツでも学問でも何かに優れているということは、本人の才能、努力、やる気などの結果であって、誰もがそうすべきだというものではありません。人間のある種の能力において平均的な能力よりも優れていることについては、その人の個性であって誰もが目指すべきものでもありません。一般的な知識や運動能力などを持っていれば、人間が普通に生きていくのには十分です。何か飛びぬけた能力を持っていれば将来生きていくのに有利なこともあるかもしれませんが、誰もが求められるものでもありません。そのような人は確率的にごくまれにしかいません。

平凡な生活は簡単には手に入らない

「平凡な生活」、「平常な社会」とは当たり前のように感じるかもしれませんが、この「平凡な生活」、「平常な社会」を手に入れることはたいへんなことです。日頃から努力を続けなければ平凡な生活を手に入れることはできませんし、平常な社会を作ることはできません。これは、人間の身体の恒常性の維持とは違って無意識に平常な状態を手に入れることはできないのです。

つまり、自分自身の外部のことである「生活」や「社会」について、恒常性を維持していくことは、その人の生き方にとって正常な仕組み、その国にとって正常なしくみをまず築かないと恒常性の維持もできません。その恒常性が理想像に向けて少しずつ進化していくことによって、人間は幸福感を増していくことになるでしょう。

特に日本の若い世代や中年層に幸福を感じられない人が比較的多いのは、年金制度の問題による将来の老後の不安、非正規労働者の貧困による生活や結婚への不安、正規労働者になれない不安、親の介護による就労不安などさまざまな不安があるためだろうと思います。将来においても人並みに「平凡な生活」を送ることが難しいのではないかと不安に思う人が多いのです。

まとめ

「恒常性維持」の概念は、人間が生命を維持するための身体のしくみに不可欠な機能であると同様に、人間が働いて生きていくための社会的な恒常性を維持するためにもなくてはならない概念です。

人間が安心して生きていけない社会は、社会として異常な状態です。これを正常な状態に戻す意識、つまり恒常性維持の意識を持って社会のしくみを修正していく必要があります。